台湾の本音 隣国を基礎から理解する
Amazonでチェックする台湾の人々は、日本以上にアメリカのスタンスに運命を左右されてきました。ニクソン以降はアメリカが中国と協調の姿勢を見せ、ロナルド・レーガンは台湾に対して優しいアプローチをとりました。これがジョージ・W・ブッシュ時代に9・11テロが起こると、中国の協力を得るために台湾への姿勢が厳しくなります。以降、ビル・クリントン政権の後半からバラク・オバマ政権の前半までは中国に接近し、オバマ政権後半になるとまた厳しい対中政策がとられる……というように、台湾はアメリカによるその都度都度の世界戦略のなかで、シーソーのように持ち上げられたり、落とされたりを繰り返しているのです。
本書 p.153
さて、ペロシが訪台を終えた翌日、2023年8月4日からの軍事演習においては、中国は第三次台湾海峡危機よりも多い数のミサイルを発射しました。しかも、今回は台湾の中心都市である台北の上空をミサイルが通過していったのです。 (中略) ところが、です。ちょうど台湾に滞在していた私は、そのさまを固唾を吞んで観察していましたが、このとき台湾社会に混乱らしい混乱はありませんでした。株価の下落は怒らず、台湾ドルも高値安定のまま推移しました。そして街中も平穏で、大衆も冷静に中国のミサイル発射を受け止めていたのです。
本書 p.163
本書はの著者でジャーナリスト(今は大東文化大学社会学部教授)である野嶋剛さんは、上智大学文学部新聞学科を卒業し、朝日新聞に就職しました。大学在学中に吉林大学、香港中文大学、台湾師範大学に留学し、朝日新聞社入社後、中国・廈門(アモイ)大学にも留学した、チャイナスクールといえる方です。朝日新聞社ではシンガポール支局長、台北支局長を務めました。
台湾は人口2300万人の「国」です。中国は何が何でも台湾を自国に併合したいと考えています。著者によれば、それはドグマであって、理屈や計算を超えた信念のようなものらしいので、こればかりは理詰めで話しても、経済的なコストパフォーマンスで話してもらちがあきません。
今は台湾と中国は経済的に密接な関係があり、「台湾有事」のような形で軍事侵攻してしまうと、お互いに痛手を負います。また、そうするとアメリカが出てくる余地を与えます。著者が一番恐れているのは、台湾に親中政権が誕生し、人民解放軍に「救援」を要請することです。そうすると中国にすれば軍派遣の大義名分ができ、アメリカは介入しづらくなる…これが、2024年の総統選でももし国民党政権が誕生していた場合の、著者の恐れていたことでした。そうはならなくてよかったと思いました。
そういうバックグラウンドのある著者だからこそ、台湾に対するジャーナリスティックな分析は正鵠を射ているものが多いです。本書の交換は前回の総統選の前でしたが、それでも頼清徳総統の当選を予見しているような文章があるなど、先見の明には驚かされます。台湾では2000年以降、国民党と民進党は2期8年ごとに政権交代をしています。しかし、今回はそのジンクスを破って、頼総統が選出されました。ジンクスは台湾の人々のバランス感覚が表れた結果とも言えました。しかし、今回はそのジンクス通りにはいきませんでした。台湾に何が起きたのか、著者の見解を聞きたいところです。
本書ではたびたび李登輝元総統のエピソードも出てきます。農政官僚、あるいは学者に過ぎないと思われていた李登輝が、権謀術数も用いて蒋経国から政権を譲り受け、総統になるとは当時、予想外の出来事とされたそうです。そして総統になってから、司馬遼太郎との対談で「台湾人に生まれた悲哀」を語りました。オランダ、清朝、日本、国民党と外来政権に統治されてきた台湾の、本省人の本音を語ってくれたと、本省人は喜んだそうです。YouTubeにも残っていますが、李登輝は選挙活動で台湾語を話し、司馬遼太郎とは日本語を話すなど、相手の心をつかむのがうまい気がします。だからこそ、あの時代、総統になれたのかもしれません。
私は一度だけ、李登輝元総統(当時)と握手をしたことがありますが、分厚い左手の感触を忘れることはないと思います。(その後、たまたま訪れた九份で選挙活動中の蔡英文も見かけたことがありますが、握手は頼みませんでした。してもらえばよかった!)
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