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脱法的に生きるイランの人々

2nd January 2026
若宮總
イラン
KADOKAWA
Last updated:1st January 2026
6 Minutes
1098 Words

イランの地下世界

私は一時期、無性に豚肉が恋しくて、アルメニア正教徒やゾロアスター教徒が営むファストフード店に通っていたことがある。どちらの店も、密輸入された豚のベーコンで作ったハンバーガやサンドイッチを出していたからだ。

(中略)注文するときも「いつもの」とか「スペシャル」とかの隠語を使う。

本書 p.95

(筆者註:酒の)売人は呑兵衛の友達を通じて見つけるのがいちばん確実である。馴染みの客からの紹介となれば、向こうもぼったくったり、変な酒を売りつけたりすることはできないからだ。

ときどき、たまたま乗り込んだタクシーの運転手から、「酒が欲しかったら俺に連絡しろ」と電話番号を渡されたりするが、こういうのはまず失敗するのでやめておこう。

本書 p.108

本書は日本人である著者がイランにほれ込み、イランの大学に留学し、イランに駐在するようになってからイランの人々と交流する過程を経て、イラン社会の奥の間を見た様子を書いてくれたものです。イランの内情が日本語で、しかも政治的バイアスが(あまり)かかっていない本として出るのは、大変貴重なことです。しかしイランからすればかなりのタブーに踏み込んでいること、そして著者自身がイランとかかわりがあることから、本書はペンネームを使って出版されています。

イランは中東の大国で、アラブとは違う、ペルシャという軸を持っています。アラビア語ではなくペルシャ語を話し、アラブでは主流のイスラム教スンナ派ではなく、イスラム教シーア派を国教としています。しかし、その中にもマイノリティーはいます。それが隣国のアルメニアの宗教を信じているアルメニア正教徒やイランの地方都市ヤズドに聖地を持つゾロアスター教の教徒たちです。彼らはイスラム教徒と違い、豚肉を禁忌としないので、彼らの経営している店に行けば豚肉が食べられます。だけど、国の宗教であるイスラム教では豚肉を食べることを禁じているため、大っぴらには販売できません。そのため隠語を使って手に入れます。

また、お酒はどの国でも飲みたがるもの。特に夏は乾燥して暑いイランの気候だと、ビールが欲しくなる気持ちは、とてもよくわかります。需要があれば供給もあり、イランではお酒は禁止されていますが、人々は割と自由に飲んでいます。私もイランに行きましたが、お酒の話はよく聞かされました。私自身、付き合い以外ではお酒を飲まないので、一人旅の場合はノンアルコールで過ごしていました。しかし、イラン人に日本語で「暑い日に飲むビール、おいしいね!」といわれたのには驚きました。

イランは民主的な投票が行われているとされていますが、イラン人からしたら全く民主的ではなく、警察国家、軍事国家ですし、人々の自由はかなり制限されています。バスも男女の乗る区域が区切られているほど、イスラム教の教えに厳格です。しかし人々は当局に隠れて(あるいは当局の人ですら)男女の交流するパーティーを開き、お酒を飲み、マリファナをたしなんでいます。統制の厳しいイラン社会を生き抜く人々のしなやかさ、したたかさをうかがわせるエピソードです。

イランの人は誇り高く、また割と誇張して表現することがあるなど、ペルシャ語やイラン社会に通暁した著者だからこそ得られる情報が盛り込まれた本書は、イランを知るのに最適な一冊です。

Article title:脱法的に生きるイランの人々
Article author:Astro-Yi
Release time:2nd January 2026